カズオ・イシグロ『日の名残り』

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

 老練な執事の回想が端正な口調で語られ、イギリスの田園描写と相まって草原を吹き渡る爽やかな風の匂いが感じられる良い小説でした。主人への忠誠と執事としての誇り、それを貫こうとするが故に失ってしまったものへの内なる悲しみが物語全体から感じられますが、それでも読後感が爽やかなのはこの語り口調によるところが大きいのだと思います。時代はめまぐるしく変わっていくし、失ってしまったものは取り返すことができないけれど、それでも前を向いてやっていくしかないんですよね。夕方の桟橋の描写がとても温かい気持ちにさせてくれました。