『サイド・バイ・サイド -フィルムからデジタルシネマへ-』を観た

サイド・バイ・サイド -フィルムからデジタルシネマへ-
http://www.uplink.co.jp/sidebyside/

新宿東口、新宿武蔵野館の近くにオープンしたシネマカリテにて観てきました。
小規模の映画館が次々に閉館する昨今、こういう劇場スタッフの顔が見えるようなシアターができるのは嬉しいことです。応援していきたいと思います。

およそ100年間の映画史において、唯一の記録フォーマットはフィルムだった。だが、過去20年間のデジタルシネマの台頭により、今やフィルムは消えつつある。本作は、デジタルとアナログが肩を並べ─ side by sideで─併存する現在を俯瞰しながら、映画におけるデジタル革命を検証していく。長年、俳優として表舞台に立つ一方、スクリーンの裏側でプロセスの変遷を見てきたキアヌ・リーブスが、自らホスト役となり、映画関係者へのインタビューを通じて、映画史の過渡期である今を切り取っていく。ハリウッドの錚々たる映画監督たちと、撮影監督、編集者、カラリスト、現像所やカメラメーカーの社員らが、キアヌの質問に答えていく。

これは、「デジタルシネマの未来」についての映画ではなく、モノクロからカラーへ、サイレントからトーキーへと、技術とともに常に変化し続ける「シネマの未来」についての映画である。

ともすればこういうドキュメンタリー映画というのは、「デジタル化は悪だ。アナログのほうが温かみがある」、という変な懐古主義にとらわれた作品になりがちだと思います。この映画はその点、とてもフェアな立ち位置でフィルムとデジタルそれぞれのメリットとデメリットを比較していて、とても好感がもてました。たぶんホスト役のキアヌ・リーブスの姿勢によるものも大きいのでしょうね。映画制作者達との対談も終始良い雰囲気で進められていて、それにのせられてうっかり喋りすぎた人たちも多かったのでは。

構成は以下の5段階の行程にフォーカスして、フィルムとデジタルの技術が映画製作に与える影響について議論が進められていきます。

・撮影
・編集
・色調整(マスターイメージ/プリント作成)
・上映
・保存(アーカイヴ)

個人的に大変面白かったのは、ほとんどの行程においてフィルム/デジタルそれぞれの利点と欠点が浮き彫りになるのに対して、上映に関してのみ、すべての出演者が「フィルムはクソだ。絶対にデジタルのほうがいい」と明言していたことです。

「上映のたびにフィルムが痛んでしまい本来の画が再現されない」
「輝度やマスク等、現場の映写技師の技量次第 (暗に上映現場のクオリティの低さが指摘されている)」
「フィルム上映機の機構上、ブレることは避けられないので狙い通りの解像度が出ない」

等々、納得のいくコメントが多々ありました。観客の立場で「映画のデジタル化」を考えると、まず最初に想像しがちなのが「映画館のフィルム映写機が無くなるのかな。」ということで、ここで先に述べた変な懐古主義がふつふつと湧いてくることが多いのですが、映画を製作する立場から考えるとそれは大きな問題ではない。自分の狙い通りの画を観客に届けるのがすべてであって、そのためには不安定なフィルムよりもデジタル上映のほうが望ましいというのは明快な考えです。
(もちろん立場変わって興行側になれば設備投資費や配給システムの問題はあるかもしれませんが)

自分の仕事柄とても勉強になる映画でした。映画ビジネスだけじゃなくて、例えば写真とか出版とか、デジタルだアナログだと議論されることが多い分野に携わる人にぜひ観て頂きたい映画です。

しかしなんて豪華な出演者達だろう。皆一様に眼光の鋭さが半端ではなくて、これが映画監督の凄みなんですかね。